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2016年7月29日 (金)

シンドラーに救われた少年

ホロコーストを生きのびたかつての少年が当事を語る迫真のルポ。
しかし、タイトルから得られる印象よりもずっと、少年自身の勇気と行動力の割合が大きい。
もちろんシンドラーの命がけの行いあっての生還ではあるのだが、それだけでは足りない。
どの要素が欠けても成し得なかった、まさに薄氷を踏むような綱渡りの状況だったことが分かる。
文章から恨みや憎しみを感じない。
レオン・レイソン氏はナチスドイツを憎んで当然の仕打ちを受けた。
にもかかわらず、この本からは激情を感じない。代わりに感じるのは靜やかなる威厳だ。
彼の故国・ポーランドがナチスに踏み躙られる前からポーランド国内でもユダヤ人迫害はあり、戦後、渡ったアメリカではユダヤ人ではなく黒人が差別されていることを知る。
その流れを彼はあるがままに受け止める。
ゆるすゆるさないではなく、自分を、家族を守るために受け止めるのだ。
彼が、そして彼が敬愛する彼の父やシンドラーがこれほどまでに強くなれたのは、ひとえに信頼の力だろう。
シンドラーはユダヤ人を守るためにナチスの高官とも友好関係を維持した。
敵意や軽蔑を漂わせていては、これは上手くいかなかったことだろう。
人は他者の悪意に敏感なものだ。
アーレントがナチス戦犯を普通の人間だと言ったように、
(こっちはフィクションだが)MASTERキートンで誘拐犯を信頼しなければ人質を返してもらうことはできないとの展開があったように、
相手が悪鬼の如き人間であっても、人間として接しなければ、信頼を勝ち得、目的を達成することはできないのだ。
それは悪人を憎むよりずっとずっと困難な戦いだ。
この本の作者が邦題のようにシンドラーの余禄のような存在だったら、俺も感動を覚えなかっただろう。
だが、レイソン氏はシンドラー同様に、その困難な戦いを成し遂げられる人だったのだ。
邦題に意義を申し立てたい!
そう思ってしまうのだ。

河出書房新社公式サイトの該当ページ
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309226354/

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